◆B・ルドフスキー 『建築家なしの建築』
 

-視野を拡げてくれる本-

 

名前のない建築

 人間が生活するうえで住居はなくてはならないものだ。
 それは最初、雨や風をしのぎ外敵から身を守るためにつくられた。

 住居はその地域の気候や地形に合わせさまざまなかたちをとる。

 建築史よりも古くからある、それらの建築物には建築家の名前は存在しない。
 だれが考え、だれがつくったのかはわからない建築物たち。
 世界中に存在する、それら建築物をあつめたのが本書である。

 本書は一九六四年にニューヨーク近代美術館で開催された「建築家なしの建築展」のために集められた写真をもとにしている。

 ひとつひとつの建築物自体にも固有の名称が存在しない。
 いちおう便宜的につけられた名前はあるが正式なものではない。

stone

 

建築としてはじめてあてられる焦点

 集められた写真を見ていると、当然ながらさまざな形状の建物があることがわかる。
 それは周辺の自然と密接に関係している。
 厳しい自然環境のなかで生きていくためにつくられた住居ではさまざまな工夫がなされている。

 住居をもつということは多くの場合、定住を意味する。

 そこで最初期の建築において住居の他に必要となるのは食料の倉庫と墓である。
 これは「生」と「死」を、あるいは「未来」と「過去」を象徴するものである。

 このような象徴性をもった「建築」には、生活していくためという「機能」以外に、「宗教」や「信仰」という観点から見る必要がある。
 しかし本書では最低限の解説しかなく、そのような考察はさほどなされていない。
 あくまでも建築物としての考察となるのだが、そこに本書の存在する意義がある。
 つまりこれまで人類学や民俗学、宗教、伝承など、別の分野において観察対象ではあったものたちに「建築」というフィルターを通して焦点をあてたのである。

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