都市計画という目的
都市計画は「自由」を制限する。用途に合わせた建物や施設の建築があり、それらを総合して都市計画となる。
都市計画以前は、そこに暮らす人々がそれぞれの必要に応じてその「場」の利用を見出していく。そのように自然発生的に成立する土地にはあらかじめ用意された計画はない。
古くからある都市の場合、最初の計画は為政者によってはじめられる場合が多い。それは土地の保全を第一に優先して計画される。歴史上の都市計画を振り返れば、外部からの攻撃や内部からの暴動を防ぐことを目的としている。
比較的社会が安定してくると、田園都市や工業都市など、その効率性を重視する傾向も生まれてくる。
計画された都市はそこで暮らす人間の自由度が限定される。計画には目的があり、その目的が人々を強制するからだ。
都市が与えるイメージ
本書は都市計画についての必読書としてあげられる一冊だ。アメリカの都市について、そこで生活する住民を面接し、その結果を詳細に分析している。そして都市があたえるイメージとはどのようなものかを記録している。
道路や目印となる建物など視覚的な分類のしかたで要素を整理する。さらにその組み合わせや構造によってもたらされるイメージを記述している。また付録に収録されている文章には過去の文学作品や神話、各地の民族の伝承などからの引用も豊富にある。
人が建築、都市を含めその土地や地域からどのようなイメージを導き出しているのかという点に注目している。そういった意味では人文科学、なかでも民俗学や文化人類学、社会学といった分野に重なる部分が大きい。
この本では都市がもたらすイメージを分析するにあたり、ボストン、ジャージー・シティ、ロサンゼルスというアメリカの三つの都市を使用する。
それらの都市の住民のなかから少数のサンプルを選び、面接をおこなう。面接では説明、位置づけ、見取り図などについて長時間にわたって質問される。
ボストンでは約30人、ジャージー・シティとロサンゼルスでは15人が面接を受けた。
しかしケヴィン・リンチ自らが語るように、「サンプルが、小さい上に専門職階級や管理職階級に片寄っていたので、この調査から真の”パブリック・イメージ”が得られたと主張することはできない」。本書の目的はボストンやその他の都市の”パブリック・イメージ”を得ることではない。
面接からわかるのは次の2点だ。
グループ・イメージと呼べるものがたしかに存在するということ。さらに、そのイメージを形成するうえで環境の形態そのものが重大な役割をつとめているということ。
ケヴィン・リンチは次のように述べる。「各個人が描く心像はそれぞれ独自のものであり、その内容の一部はめったに、または絶対に、他人に伝達されない」
しかし、だいたいにおいてそれはパブリックイメージに近いものになるということだ。そのイメージをもたらすものとしては、その地域がもつ歴史や社会的な意味ももちろんある。が、この本ではそれよりも都市の形態がどのように影響を与えているかを明らかにしようとする。
イメージのもとになる五つのもの
都市のイメージのもとになるものは物理的な形態に限っていうと以下の五つに分類できる。それは道路、縁、地域、接合点・集中点、目印。これらはそれを観察するものによって異なる形態になる。
高速道路は車を運転するものにとっては「道路」であるが、歩行者にとっては高速道路のこちら側とあちら側という意味で「縁」となる。とはいえ観察者がどのようなレベルで観察する場合でも、常にこれらの五つの領域で説明可能であるという。
この五つの要素がもたらすイメージについて各要素ごとに詳細に述べられる。また要素間の相互関係やイメージのレベル、特質、展開などにも詳細に語られる。さらに実際に都市をデザインするにあたり、どのようなデザインがどのようなイメージを与えうるかということが書かれている。この部分は本書のもっとも中心的な部分だ。
丁寧な解説
この本は都市デザインが与えるイメージについて、実際に面接した結果という興味深い資料をもとに展開される。そこからもたらされるイメージと、それにあわせたデザインの検討と進むのである。イメージという輪郭のないものを、論理的に整理した非常に優れた本だといえる。
さらにこの本の優れている点は、見落とされがちな点を補足することも忘れていない点だ。
たとえば前述したように、イメージをもたらすものとしてその地域がもつ社会的な意味や歴史などが大きな役割をもつことをあらかじめ述べている。その上で本書の目的として都市の形態のみを取りあげるという、ことわりを入れている。
また重要なのはどのようなイメージをもたらすかということである、と明言する。そのために形態をどのようにデザインするかということも重要だが、それとは別に、観察する市民を教育することで彼らの心像のイメージを改良できることも同時に記してある。
『都市のイメージ』というタイトルから逸脱することなく、資料を用いて詳細な分析をおこなう。その分析のもつ可能性とその限界について、またその目的とそのために必要な別の方法についても書かれている。とても丁寧に書かれた良書であるといえる。
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アンリ・ルフェーヴル 『都市への権利』